2011年7月17日日曜日

米国債が安全でないなら何が安全?―債務危機時代の投資心得

お金持ちの人は、結局安全なところが一つはないと困るもんね。


 世界中で次々に公的債務危機が起きつつある状況で、投資ポートフォリオのリスク低減を図るにはどうしたらいいのか。まずは大きく深呼吸し手直しの必要があるかどうか確かめることだ。ただし、あまりに多くに手をつけようとしてはいけない。

 欧州で混乱が続くなか、資金をどこか「安全な場所」に避難させたい投資家は先週 、1カ月にたった0.01%の利益しか生み出さない米国の財務省短期証券を進んで受け入れた。米国自体にデフォルト(債務不履行)の危機が迫っているにもかかわらず、短期財務省証券の利回りは現在、過去最低の水準で推移している。

 米国がトリプルAから格下げされるかもしれない。米国経済は低迷しつづけるだろう。結局はインフレが進むだろう。ドルは下落するだろう――今、こうした懸念が強まっている。このところ米国債とドルが反発しているのは、他の国のほうが混乱しているからだ。

 このように不安が広がるなか、リスクを一つ減らしても、別のリスクが高まるだけだ。例えば、金(きん)を買うとしよう。金を買えば、ドルの暴落で資産が大きく痛むというリスクは軽減できる。しかし、金は最高値水準で推移しているし、資産として投資収益も生み出さない。本質的な価値もなく、インフレ対策としては好成績を上げていない。そのような金を買うことで別のリスクを背負うことになる。他のヘッジを採用すれば、それなりのリスクやトレードオフがついて回る。

 従って、急激な軌道修正を図れば、米ドルやインフレによるリスクは軽減できるかもしれない。しかし、今日の不安が現実のものとならなければ、または先々、予想外の事態が発生すれば、急激な方向転換でケガをしたのは自分だったということにもなりかねない。だからこそ「適度に・が重要なのだ。

 CFA協会の調査部門であるリサーチ・ファンデーションの調査ディレクター、ローレンス・シーゲル氏は、通常であれば米国の投資家はドル建て資産の保有を重視すべきだと言う。将来の支払いはドルで行うからだ。シーゲル氏は「しかし、今のドル資産の利回りは異常に低いため、他の解決策、つまり国際分散投資を重視するという結論に至っている」と述べている。例えば、通常、米株以外に20%投資している場合であれば、その割合を25%に増やし始めてもよい。

 その方向で自身のポートフォリオも調整し始めている有力投資家もいる。ロサンゼルスに拠点を置くオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長、ハワード・マークス氏は「危機になると、自分の(個人的な)安全資金は全て米国債に投資していた」と語る。同社は800億ドル以上の資産を運用している。「今はさまざまな国の債券に投資している。そのうちのどこかの通貨が対ドルで上昇すると想定してのことだ」

 同様にオフィット・キャピタル・アドバイザーズ(ニューヨーク)で最高投資責任者を務めるトッド・ペッツェル氏は、顧客の資産を米国政府以外の政府発行の短期証券に分散投資していると語る。ペッツェル氏の好みはオーストラリアやブラジル、カナダなど債務水準が低く天然資源が豊富な国だ。

 比較的新しい投資信託を使えば小口投資家は比較的容易に分散投資ができる。繰り返すが、適度に、である。

 ウィズダムツリー・ドレイファス・コモディティー・カレンシーとウィズダムツリー・ドレイファス・エマージング・カレンシーは外貨に投資する上場投資信託(ETF)だ。少なくともこれまでのところ、公的債務危機から受けた痛手は比較的小さい。前者はオーストラリアやカナダ、ロシア、ニュージーランド、その他の原材料の主要輸出国4カ国の通貨に、後者はブラジル、中国、インド、イスラエル、その他の発展途上国8カ国の通貨に投資している

 SPDR・DB・インターナショナル・ガバメント・インフレーション・プロテクティッド・ボンドとアイシェアーズ・インターナショナル・インフレーション・リンクト・ボンドは世界10数カ国以上の政府が発行した債券を保有するETFだ。各国のインフレに対応するためだ。このような投資信託は米国内の購買力低下から部分的にではあるが資産を保護する機能を果たしている。

 発展途上国の債務はもはや割安ではない。しかし、まだ分散投資の対象になるかもしれないアイシェアーズ・JPモルガン・USD・エマージング・マーケッツ・ボンドは、米ドル建ての債券を保有するETFで、マーケット・ベクトル・エマージング・マーケッツ・ローカル・カレンシー・ボンドはブラジルのレアル、チリのペソ、ロシアのルーブルなど外貨建て政府証券に投資している。

 しかし、忘れないでほしい。多くの新興国は米国より財政上の見通しが優れているかもしれないが、そういう国はまだ危険をはらんでいる(ロシアに資金を貸し付けてもドキドキしないなら、誰かに脈を測ってもらったほうがいい)。通貨ファンドを使えば、ポートフォリオ全体のリスクは分散されるかもしれないが、分配は年に1度だけで、現金の代わりにはならない。

 バッキンガム・アセット・マネジメン(セントルイスト)で調査ディレクターを務めるラリー・スウェドロウ氏は「市場が再び不安に陥れば、また質への逃避が起きる」と言う。「その時にはドルが上昇して、頼みの綱だったヘッジなしの外債がやられてしまう」

 債務危機への対応としてどうしても資金を動かすというのであれば、少額をゆっくりと動かしたほうがいい。起きて当然と思っている事態は当然すぎて、実際に起きないこともあるのだ。オークツリー・キャピタル・マネジメントのマークス氏は言う。「世間は昔よりも今のほうが安全ではないのか。それとも、昔も人が思っていたほど安全ではなかったのか。昔と比べればリスクは高くなっているかもしれない。しかし、昔はリスクなんて誰も考えもしなかった」

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