今回みたいなことを教訓に、いろいろと対応できるところは対応してほしいですね!
震災に伴う電力不足から「冷房を入れたいけど、我慢しなければ……」と思っている人も多いのでは。建物の断熱性能を向上すれば夏も冬も今よりは快適に過ごせるので、もっと積極的に取り組むべきだ。
日本の住宅は徒然草で「家の作りは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」と書かれているように、まず夏の暑さ対策が肝心といわれる。現代人にとっては「暑さも寒さも嫌」となるが、寒冷な土地を除けばやはり住宅の構造も生活様式も暑さと湿気をしのぐ工夫が凝らされる。震災に伴う電力不足から冷房の節制が求められるこの夏は、特に徒然草の言葉が身にしみそうだ。
一方、ドイツの住宅は冬の寒さ対策を第1に考える。
ドイツでは温暖とされる筆者の居住地域も、ときにマイナス15度を下回る厳寒に襲われ、年間平均気温は秋田市と同程度だ。暖房は温水を循環させるセントラルヒーティングが主流で、地下室に設置されるボイラーの燃料は灯油か天然ガスが一般的。最近は木質燃料(木質ペレットなど)やバイオディーゼルも増えてきた。ドイツの建物は暖房エネルギー消費量が多いだけに、古い住宅の断熱改修、エネルギー効率の高い暖房システムの導入、省エネに優れた造りにするなど、省エネ暖房は経費節減とCO2排出削減の膨大な可能性を秘めている。
ドイツの住宅は冬に重きを置いているが、実は断熱性能の考え方は冷房にも大いに生かせるものだ。今回はドイツの建物の省エネルギー基準から、夏も冬も快適に過ごすための断熱について考えてみたい。
●省エネ基準2009
建築物の省エネを促進するドイツの法律は、省エネルギー基準(EnEV。以後、省エネ基準)と呼ばれる。最初に制定された1976年当時は断熱基準と暖房機器基準に別れていたが、2002年からは名称を少し変えた上で統合され2004年、2007年、2009年に改定されている。省エネ基準はドイツの建築法の一部をなし、新築の建物と大規模に改修(床面積10%以上)する建築物が満たすべきエネルギー性能を定めたものだ。
省エネ基準2002以降は暖房に必要な1次エネルギー(電力・熱・動力に使われるすべてのエネルギー)消費の全体像をとらえ、それをどう削減するかに焦点を当てている。2007年からは新築の建物と大規模に改修する建物のエネルギー性能を示すエネルギー証明の取得が義務付けられた。
2009年10月に施行された現行の省エネ基準2009は省エネ基準2007を30%厳しく設定している。この基準レベルは、いわゆる省エネルギーハウスに準じるものだ。
・建物の省エネルギー基準の推移
建物の省エネルギー法制定(EnEG)1976年
第1次断熱基準 1978年:第1次暖房機器基準 1978/82年
第2次断熱基準 1985年:第2次暖房機器基準 1989年
第3次断熱基準 1995年:第3次暖房機器基準 1994/98年
EnEV 2002-1次エネルギー消費節約の考え方を導入
EnEV 2004-細部の改定
EnEV 2007-エネルギーパスの導入
EnEV 2009-1次エネルギー消費の30%削減
EnEV 2012/2015-1次エネルギー消費削減の厳格化
EnEV 2019-パッシブハウスをスタンダードに
(出典:カールスルーエ市エネルギー・水道公社)
●基準内容
以下、図1と表1に沿って新築の省エネ基準の考え方を説明しよう。
屋根、外壁、地下室の壁、窓は、それぞれの材質や構造により異なった熱の通しやすさを持っている。これをU値※という係数で表し、U値は小さければ小さいほど熱の透過が少ない、つまり断熱性が高いことを意味する。例えばU値0.20~0.25ならば、15~20センチ厚の発泡スチロールやグラスウールの断熱性能に相当する。屋根、外壁、地下室の壁、窓のU値に基準値をもうけ、改定のたび値は厳しくなっている。
※U値:U-Wert=熱損失係数。単位はW/m2K(K=ケルビン)
最も高い断熱性が求められるのは窓だ。省エネ基準2009までは断熱性能の高い2重ガラスで十分だったが、省エネ基準2012/15以降は3重ガラスが必要となるだろう。
次に厳しいのは屋根。冬の暖房熱を外に漏らさないことはもちろん、夏の暑さを屋内に通さないためにも高い断熱性が求められる。
建物全体の機密性が高くなると、今度は換気の問題が発生する。空気の乾燥しているドイツでも、機密性の高い家は換気に気をつけないとすぐカビが生える。単なる換気扇では熱を捨てるようなものだから熱交換式の換気扇が必要となり、そこでも壁と同様の断熱性が求められる。
●再生可能エネルギーの熱利用
図1に見られるとおり、新築は太陽熱温水器とエネルギー効率の高い暖房・給湯設備の設置を標準としている。もし設置できない場合は、省エネ基準2009よりさらに15%厳しいU値が適用される。
このことは2009年1月に施行された「再生可能エネルギー熱利用法(EEWarmeG)」にも関連する。同法は、新築される建物に対し暖房と給湯に再生可能エネルギーの熱利用を義務付けるものだ。
例えば住居面積150平方メートルならば、約6平方メートルの太陽熱温水器の設置が必要となる。太陽熱温水器の代わりに木材ペレットやバイオディーゼルのボイラーを設置したり、庭に配管を巡らせて地熱を利用してもいい。再生可能エネルギーではないが、地域温水供給やヒートポンプの利用も同法に準じるものとして扱われる。もしそれらが難しい場合にはコジェネレーションの利用や、さらに厳しいU値が適用される。
●冷房にも有効
断熱性能の考え方は基本的に暖房だけでなく冷房にも生かせる。
ドイツの建物は屋根裏部屋をごく普通に住居や事務所として使用する。筆者はドイツへ来る前、映画やドラマに出てくる屋根裏部屋に欧州の典型的な街並みを感じ憧れを持っていたが、実際の住環境は最悪だった。夏は日中の熱気が屋根を通して室内を蒸し、冬は一転して寒気がこたえる。屋根には質の高い断熱を施し、窓には外付けブラインドを設置して直射日光を遮らなければ夏はとても住めたものではない。
今回のテーマは新築や改築時の対策でありこの夏には間に合わない話だが、日本の建物も断熱性能の向上に積極的に取り組むべきだ。日本型の省エネ基準はあるにはあるが、他国のレベルに肩を並べるのは数字だけで、実施の実態は先進国として誇れるレベルには程遠い。数値を定めるだけでなく、再生可能エネルギーと一体化した制度設計、一般市民にも分かりやすい情報提供や広報活動など課題は多い。
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