既得権益に縛られない社会を作ってもらいたいですね。
ソフトバンクの孫正義社長が、「脱原発」と「自然エネルギー推進」を掲げ、電力業界に殴り込みをかけた。大風呂敷を広げてみせ、時の首相をもたきつける“商魂”たくましきバイタリティーは健在だ。規制だらけの通信業界に風穴を開けた孫社長。さらに厳しい規制と既得権益でがんじがらめの電力業界でも、“風雲児”となれるのか。
■赤坂での密談
東日本大震災から2カ月をすぎた5月14日。東京・赤坂の料亭で意気投合する2人がいた。菅直人首相と孫社長だ。
国難に当たり多忙な首相だが、会食は2時間以上に及び、「自然エネルギーで盛り上がった」(孫社長)という。
その4日後の18日。菅首相は会見で、福島第1原発事故の賠償問題にからみ、突如として東京電力の「発送電分離」の検討を表明。さらに5月下旬のG8サミットで訪れたフランスでは、「2020年までに自然エネルギー電力20%」「太陽光パネル1千万戸設置」と、政府内で議論もしていない“口約束”を連発した。
「首相の一連の発言に孫社長との会合が影響したのは間違いない」。政府関係者は、こう明かす。
呼応するように孫社長も動く。25日に関東地方自治会議に出席し神奈川、静岡など19道県が参加する「自然エネルギー協議会」の設立を発表。26日には橋下徹大阪府知事ら関西広域連合と会談し協議会への参加は26道府県に拡大した。
孫社長は、自然エネルギー事業に1千億円規模で投資すると表明。埼玉県との間では、孫社長が79億円、県側が1億円を拠出し、大規模太陽光発電所「メガソーラー」を建設する計画が進んでいるという。
■したたかな計算
なぜ孫社長は突如として、自然エネルギーに目覚めたのか。
「孫と私が動くのはいつも『世直し』のとき。今は自然エネルギーの普及を阻む規制と戦ってみたいという気持ちが大半だ」
元民主党衆院議員で孫社長にスカウトされた嶋聡ソフトバンク社長室長は、その心中をこう代弁する。
孫社長も、震災後のある会見で、脱原発について問われ、「一人の人間として多くの人々に幸せになってもらいたい」と、答えている。今回の事故を契機に「原発に嫌悪感を持つようになった」(総務省幹部)のは確かなようだ。
もっとも、「慈善事業や社会貢献だけで金を出すような甘っちょろい人物ではない」(通信業界関係者)というのも、衆目の一致するところだ。
実際、孫社長の震災後の行動には、したたかな計算がうかがえる。
布石は菅首相に言わせた「発送電分離」だ。海外では発電事業と送電事業を別々の会社が手がける国も多いが、日本では電力会社が一手に握り、「地域独占」で電力を供給している。
原発に比べはるかにコストが高い太陽光など自然エネルギー発電事業をビジネスとして成立させるには、この地域独占を崩す必要があるといわれてきた。発送電分離は、東電と巨大規制産業を切り崩す突破口だ。
ソフトバンクに詳しいアナリストは、「大義と遠大な構想を掲げ、広く世論や社会に訴え、規制緩和で自らに有利な事業環境を整える。規制で守られてきた業界ほど、ビジネスチャンスも大きいというのが、孫さんの考え」と解説する。
■狙いは送電線買収?
さらに株式市場では、「ソフトバンクは東電の送電事業の買収を狙っている」との観測もまことしやかに語られている。
そのメリットは大きい。すべての家庭に張り巡らされた電力線は、通信インフラとして活用できる。今後、不安定な自然エネルギー電力を普及させるため、通信機能を組み込み、需給を制御する次世代送電網「スマートグリッド」の整備が進めば、通信と電力の融合はさらに加速する。
送電塔を携帯電話の基地局に利用すれば、「つながりにくい」との不評も解消できる。
東電の送電網の資産価値は、原発事故の巨額賠償金を一気に捻出できる4、5兆円とされる。約1兆8千億円を投じて英ボーダフォンから携帯事業を買収し今や売上高3兆円を超える企業グループに成長させた孫社長にとって、あながち無理な金額ともいえない。
ただ、盟友となった菅首相が「退陣表明」後に「居座り続投」を宣言し、袋だたき状態になってしまったのは大誤算だろう。“反菅”の逆風が、自らに向いかねない。果たして孫社長の野望は成就するのか…。
2011年6月5日日曜日
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