2012年6月17日日曜日

コンプガチャ・ショック 不協和音で業界最大の窮地

急成長しすぎたね。でも、こういう分野をうまく成長させていって、外貨を獲得できるくらいにならないとなあ。




 日本で「唯一の成長産業」といわれたソーシャルゲーム業界が最大の危機を迎えている。収益を牽引(けんいん)してきた課金方法「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」が全面禁止となり、ビジネスモデルの再構築を迫られているからだ。だが、業界を主導するDeNA(ディー・エヌ・エー)とグリーは訴訟合戦を続け、共同歩調を取れないでいる。今後の対応を誤れば、期待の成長産業は縮小に向かう可能性もある。

 ■現場の交流は活発

 「かっとばせー、ラーミレス!」。プロ野球セ・パ交流戦で盛り上がる5月末の横浜スタジアム。スタンドでは、DeNAとグリーの中堅社員らが身を寄せ合って、今年から参入した横浜DeNAベイスターズに熱い声援を送っていた。

 本来は“商敵”である両社だが、グリーの社員らがリーグ最下位に甘んじているベイスターズに“塩を送ろう”と持ちかけた粋な計らいだった。ソーシャルゲーム業界では、技術者の流動性も高く、現場レベルでの交流も盛んだ。

 だが、業界のイメージ向上策では両社の足並みはそろわない。報道各社が「消費者庁がコンプガチャに規制を検討」と報じた直後の5月7日には、1日で時価総額が両社合計で約2千億円も吹き飛んだが、「コンプガチャ・ショック」は両社の不協和音を業界内外にさらすことになった。

 コンプガチャはカプセルおもちゃの販売機(ガチャ)のように抽選方式でアイテムを購入。決められた数種類のアイテムをそろえる(コンプリートする)と、さらに希少なアイテムを入手することができる仕組み。だが、希少アイテム入手までに数十万円もかかる場合もあり、社会問題化しつつあった。

 ソーシャルゲームが景品表示法に違反するとの指摘が出始めたのは昨年秋ごろ。当時は、料金を支払わなければゲームを十分に楽しめないにもかかわらず、「無料」とうたう広告について、消費者庁は「違法」との見解を示した。

 ■後手に回った対応

 一方で、ソーシャルゲーム業界はこのとき「コンプガチャなどの課金システムの違法性は不問とされる方向」(関係者)との感触を得ていた。それだけに消費者庁が「問題になるケースが出てくれば適切な対応を取る」(福嶋浩彦長官)との方針を示したことに、業界の対応は後手に回った。

 こうした中、先にコンプガチャ問題の具体策を公表したのはDeNAだった。

 「現行法に違反するという考えは持っていないが、社会的な問題提起がなされている」。守安功社長は5月9日の決算会見でコンプガチャを廃止する方針をいち早く示した。DeNAは株価が急落した7日に予定していたコンプガチャの新企画の取りやめを発表するなど、その前から着々と対策を講じていた。

 一方のグリーは8日に決算発表を迎えたが、田中良和社長はコンプガチャ対策について「真摯(しんし)に取り組む」と述べるにとどめた。同社はソーシャルゲーム関連6社でつくる協議会の主導的立場。当時は業界指針の策定のまっただ中にあり、グリーは「できあがった指針に従う」という立場をとっていたからだ。しかし、DeNAの突然の“廃止宣言”を受けて、その数時間後に急遽(きゅうきょ)、コンプガチャの廃止を発表せざるを得なかった。

 ■訴訟 泥仕合の様相

 足並みの乱れの背景には両社の提訴合戦がある。ゲームの著作権侵害などをめぐる訴訟は今や泥仕合の様相。コンプガチャ問題への対応を協議する状況になく、守安氏も「訴訟などもあり、グリーと協調が取れなかったことは反省している」と認める。

 一方、業界の成長スピードにコンプライアンス(法令順守)が追いついていない側面も否めない。未成年者がゲームに数十万円をつぎ込むことは珍しくなく、キャラクターやアイテム、ゲーム内の仮想通貨などを現実の通貨で売買する「リアルマネートレード(RMT)」をめぐる詐欺などのトラブルも頻発している。

 各社ごとに24時間体制でのサイト監視などの対策をとるが、実効性は不十分。6社の協議会はコンプガチャを禁止する方針こそ示したものの、5月末に公表するはずだった業界指針はいまだに発表されていない。

 コンプガチャは、ソーシャルゲーム会社にとって収益性が極めて高いサービスだっただけに、両社は今後、大幅な経営戦略の変更を迫られる。コンプガチャに代わる新たな課金システムの開発を急ぐが、再び規制の網に引っかかる可能性もあり、課金システムそのものへの批判も絶えない。

 ソーシャルゲーム会社によっては、売り上げの3割にも達するといわれるコンプガチャ。それに代わる新たなサービスを開発できるのか。急成長を遂げた業界は最大の試練を迎えている。

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