悲しいかな、円高には厳しい業界だよね。頑張れ!
マツダが業績回復のきっかけをつかめないでいる。円高に翻弄(ほんろう)され、平成24年3月期決算は国内自動車メーカーとして唯一の赤字。赤字は4期連続で、株価は今月に入り48年ぶりに一時100円を割り込んだ。生き残りに向け、“虎の子”である低燃費技術「スカイアクティブ」の切り売りも余儀なくされており、先行きの展望は開けていない。
■遅れる海外展開
「4期連続の赤字、2期連続の無配の経営責任をどう考えているのか」
4月27日、東京・青山のイベント会場で開かれたマツダの決算発表。円高の影響で苦戦したと笑顔を交えながら説明してきた山内孝会長兼社長だったが、記者からこう切り込まれると、表情は急にこわばった。
4期連続の赤字について、山内社長は「この期間はリーマン・ショック後の混乱期で、ゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーが破(は)綻(たん)する中、マツダは倒産せずに頑張った。やれることはやっている」と半ば開き直るように回答。だが、市場関係者の評価は散々で、決算発表を受け、「格付け方向は(格下げの可能性がある)ネガティブ」(SMBC日興証券金融経済調査部)、「金融危機で七難八苦」(中西孝樹・メリルリンチ日本証券リサーチアナリスト)などとマツダに対する視線は厳しさを増している。
マツダが業績低迷に苦しんでいるのは、輸出比率が高いためだ。海外展開が進むホンダの輸出比率が3割弱であるのに対し、マツダは8割弱。長く米フォード・モーター傘下だったため、独自の海外展開が遅れていることは否めず、円高が他の自動車メーカーにも増して重くのしかかる。
当然、マツダも業績回復のカギは海外の生産拠点増強と理解しており、メキシコ新工場、タイ工場の増強、ロシアでの新工場などのプロジェクトが進行中。だが、いずれも操業開始は26年中で、効果を発揮するのは27年以降になる。最近の山内社長の口癖は「メキシコ工場までは我慢」だ。
■代名詞を他社に供給
国内市場でもヒット車に恵まれず、シェアは5%割れが定着している。だが、ロータリーエンジンを生み出した技術開発力は健在で、内燃機関の改善によってハイブリッド車(HV)並みの低燃費を目指す「スカイアクティブ」技術によって、マツダは巻き返しを狙っている。
実際、スカイアクティブを搭載し、2月に発売したSUV(スポーツ用多目的車)「CX-5」は2カ月で1万4千台の受注を獲得。日本での年間販売計画1万2千台を短期間で上回り、スカイアクティブの高い競争力を見せつけた。
だが、存在感を示すために不可欠なこの技術を、マツダは切り売りする戦略を進めている。
5月に発表されたイタリア自動車大手フィアットとの提携協議は、業界関係者の多くを驚かせた。27年から本社工場(広島県府中町)で生産する2人乗りの小型スポーツカー「ロードスター」の次期モデルを、フィアット傘下の「アルファロメオ」にOEM(相手先ブランドによる生産)供給するという内容だったからだ。
■間違った「選択と集中」
数少ないヒット車の1つであるミニバン「プレマシー」を、日産自動車にOEM(相手先ブランドによる生産)供給するなど、マツダは主力車種、基幹技術をライバルに供給することに抵抗を感じないところが少なからずある。だが、ユーザーが極めて限定されるオープンスポーツカーとはいえ、「ロードスター」は欧州におけるマツダの代名詞。しかも、新型車にはスカイアクティブの搭載を予定しているのだ。
マツダの狙いは、開発投資などの分担だ。だが、フィアットはこのモデルを北米にも投入し、「国際ブランドに育てたい」(マルキオンネ最高経営責任者)考えで、フィアットとの提携戦略が逆にマツダの存在感を失わせる結果にもなりかねない。
マツダと同様、海外生産拠点に乏しく、輸出比率が80%弱に達する富士重工業は、24年3月期で円高で大幅減益になりながらも384億円の最終利益を確保。世界販売台数も過去最高を記録した。主力の米国市場をターゲットに車種に絞り込んだことが奏功した。
これに対して、マツダは自動車用エンジンとしては実用化が極めて難しくなったロータリーエンジンを電気自動車(EV)の発電用エンジンとして、研究開発を継続。今月16日には業績が回復していないにもかかわらず、かつて優勝したルマン24時間耐久レースに来年からエンジン供給で参戦することも表明した。
「選択と集中の仕方を間違えている」。アナリストの間には、こんな辛辣(しんらつ)な見方も出始めている。
2012年6月23日土曜日
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