2012年7月25日水曜日

牛丼値下げ競争“勝者なき消耗戦”だった 客離れ対策に決め手なし

おいしいけど、たまに食べられればいいからね。店舗が多い気もする。


「デフレの申し子」といわれてきた牛丼チェーン店の激しい値下げ競争は、「勝者なき消耗戦」に終わったようだ。ゼンショーホールディングス(HD)が展開する最大手の「すき家」と吉野家ホールディングス(HD)の「吉野家」、松屋フーズの「松屋」の大手3社の既存店ベースの売上高はそろって前年割れが続いている。離れてしまった客を呼び戻そうと、各社はメニュー開発やキャンペーンなど新戦略に知恵を絞るが、決め手がなく、出口が見いだせない。外食産業に旋風を巻き起こしてきた牛丼チェーンはいま、岐路に立たされている。


 「商品を変えずに値段を下げれば、一時的なシェア争いはできるかもしれないが、持続可能な成長市場をつくることはできない」。日本マクドナルドの原田泳幸CEO(最高経営責任者)は、牛丼店の値下げ競争を切り捨てる。

 同社は、2000年代初めに巻き起こったファストフードの値下げ競争をリードし、「59円バーガー」などで話題を集めた。しかし、「ハンバーガー=安物」のイメージが定着し、売上高の大幅ダウンを招いた苦い経験がある。

 その後、経営を引き継いだ原田CEOは「不毛な値下げ競争」とは距離を置いた。低価格の商品で集客する一方で、高付加価値のハンバーガーで収益を稼ぐ複合的な価格戦略に転換し、業績のV字回復を果たした。その後も、新規顧客の開拓、既存客の来店頻度の向上など、次々と手を打っている。

 一方、大手3社で値下げ競争を激化させた牛丼チェーン店は、昨秋から急激な市場の収縮に直面する。値下げで牛丼首位の座を勝ち取った「すき家」でさえ、既存店ベースの売上高が10カ月連続の前年割れと成長に急ブレーキがかかる。店舗数は前年同月比約200店増にもかかわらず、5月の全店売上高は0.2%減と厳しい。吉野家、松屋も売上高、客数ともに苦戦が続く。「置かれている環境はたいへん危機的状況にある」(吉野家HDの河村泰貴・次期社長)。

 牛丼チェーン自身も、値下げ競争の限界に気づいている。5月に開かれた2011年度の決算発表で、ゼンショーHDの湯原隆男CFO(最高財務責任者)が「値引きによる売上高の押し上げ効果が下がってきている。お客さまは価格が下がることを期待しているのか」と疑問を呈したほか、「値下げによる盛り上がりは収まっている」(松屋の緑川源治社長)など、値下げ競争の“幕引き”を示唆する発言が相次いだ。

 さらに、牛丼チェーン店の前には、新たなライバルが立ちはだかる。スーパーマーケットやコンビニエンスストアの「中食」ビジネスだ。コンビニ各社は、東日本大震災後に来店が増えた女性やシニア客を取り込もうと、プライベートブランド(PB=自主企画)の総菜、弁当の品ぞろえを強化し、パック入り「牛丼の具」まで取り扱っている。

 吉野家HDの鵜沢武雄執行役員は「スーパー、コンビニの総菜コーナーは日増しに充実しており、最大の脅威」と危機感を隠さない。実際、吉野家ではスーパーなどが総菜の販売を強化する夕方以降に、客数、売上高が減少する傾向という。新たなライバルとの競争に対応し、成長路線に復帰するために、3社とも商品や店舗開発の見直しを急ぐ。

 吉野家は、男性や女性、家族層などターゲット別の戦略を強化する。女性や家族連れが入りやすい店舗を研究し、その第1弾として、内装やどんぶりも既存店とはまったく異なる新型店舗を、8月1日に埼玉県川越市にオープンする。忙しいビジネスマン向けに、メニュー数を絞って素早く提供する「築地吉野家」も拡大する。

 すき家は、主力の牛丼以外の商品を値下げし、集客を狙う。3商品を交代で値引きする新たなキャンペーン「得すき」を始めたほか、朝食メニューで200円と格安の「たまごかけご飯朝食」を投入した。松屋も牛丼以外の定食の価格を引き下げたほか、コストを下げるため豪州産のコメを導入する一方、出店地域の拡大も急ぐ。

 超円高や消費増税による景気の不透明感で、消費者の目線は厳しさを増す。「安いだけでは売れない。価値のある商品に相応のお金を払う傾向が強まった」(流通関係者)との指摘もある。「低価格」を最大の武器にしてきた牛丼などのファストフード店の選別は、これからが正念場だ。

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