2012年7月23日月曜日

<ユーロ安>円独歩高の様相 輸出企業、打撃

ここまできたら、介入しても焼け石に水だね・・・ユーロ円の80円台も目前だ。


 欧州債務危機拡大への懸念が再燃し、市場でユーロ売りが止まらない。米経済も先行き不透明感が高く、リスク回避の姿勢を強めた投資家は「相対的に安全」とされる円買いに走り、円だけが大幅に上昇する「独歩高」の様相を再び帯びてきた。円高は海外旅行が安くなるなど利点もあるが、輸出企業の業績への打撃は深刻で、株安にもつながる。景気の腰折れ懸念が高まれば、政府・日銀に対して追加の金融緩和や円売り介入を求める声が高まりそうだ。

 「(為替相場の)過度な変動や行き過ぎた投機的な動きには断固たる措置を取る」。円高進行を受けて、政府は23日、安住淳財務相や中尾武彦財務官らが相次いで円売り介入をちらつかせる「口先介入」を行い、市場をけん制した。しかし、相場は対ユーロでも対ドルでもほとんど円安方向に動かず、市場の円高圧力の強さを印象づけた。

 円の「独歩高」の背景には、スペインの財政悪化懸念が再燃し、欧州債務危機問題の先行きへの楽観的な見方が急激に後退したことがある。危機拡大への懸念からユーロ離れした資金は「安全資産」の円に集中的に向かい、急激な円高・ユーロ安が進んだ。市場では「1ユーロ=90円を下回る可能性がある」との見方も出ている。

 6月中旬以降、ギリシャ再選挙で緊縮財政派が勝ち、ユーロ圏からの離脱懸念が後退。欧州連合(EU)もスペインの銀行再建に総額1000億ユーロを支援する方針を決めたことを受けて、市場では一時、欧州危機が収束に向かうとの期待感も台頭した。

 しかし、スペインでは地方自治体が中央政府に支援を要請するなど「地方の財政不安が新たに顕在化」(UBS証券の伊藤篤ストラテジスト)。同国の10年国債利回りは再び持続的な財政運営が困難になる「危険水準」とされる7%を突破し、市場の欧州危機拡大懸念がぶり返した。ドイツなどユーロ圏主要国がまもなく夏休み期間に入り、危機対応が停滞するとの見方もユーロ売りに拍車をかけている。

 その上、米国も雇用改善の遅れなどで景気の先行き不安が消えず、市場では円買い圧力が日増しに強まる状況だ。世界経済の減速や円高の長期化をかぎ取った東京株式市場では、輸出関連株などが売られ、株価が大幅続落した。

 緩やかな回復を続けてきた日本経済だが、エコカー補助金など需要刺激策の終了で「12年後半には景気は踊り場に入る」との観測も出ている。そんな中、円高が再進行し、企業業績を圧迫すれば、景気腰折れ懸念が高まるのは必至だ。

 日銀の白川方明総裁は23日朝、野田佳彦首相と東京都内のホテルで約3カ月ぶりに会談。1時間に及んだ会談後、白川総裁は記者団に「率直な意見交換ができた」と、政府との協調ぶりを示したが、追加の金融緩和に動いても円独歩高の流れに歯止めをかけられるかは不確か。産業界からは円売り介入に期待する声も出始めたが、欧州危機収束も米景気の急回復も見えない中で日本単独の介入には限界があるのが実情だ。

 ◇メリットは限定的

 トヨタ自動車の前川真基(まさもと)副社長は23日、東京都内で開いた新車発表会で記者団に、急激な円高・ユーロ安について「製造業としては厳しい。(政府に)よろしくお願いしたい」と早期の対応を求めた。

 トヨタの12年度の想定為替レートは1ユーロ=105円。ユーロ安が進み、1円円高になるごとに年間の営業利益が約50億円吹き飛ぶ。1ユーロ=94円台の現状の水準が続けば営業利益が500億円以上も目減りする計算だ。

 ソニーも想定レートは1ユーロ=105円。1円の円高で年間営業利益が約60億円減少する。ドル安に対しては部材の現地調達拡大などで耐久力を強め「為替変動の影響はゼロ」にしたが、「ユーロの場合は現地調達で(円高差損をカバーできる)部分が限られている」(広報)という。

 売上高全体に占める欧州と米国の比率がそれぞれ約3割にものぼるキヤノンは1ユーロ=105円、1ドル=80円を想定。1円円高が進めば年間ベースでユーロでは48億円、ドルでは78億円の減益要因となる。業績への懸念は大きく、23日の株価は前週末比5%近く下げた。

 対照的に、旅行業界は円高に活気づく。旅行代理店最大手のJTBのロンドン五輪観戦ツアーはほぼ完売。欧州旅行も「買い物や食事が割安」(JTB)なことが追い風になり、今年上半期の予約数が前年同期比3割増を記録した。

 一方、家具・インテリア大手の大塚家具は円高・ユーロ安を受けて、今年1、2月にドイツやイタリアを中心とした欧州輸入家具約400品目を3.8~27.3%値下げ。しかし、今回のユーロ安局面でのさらなる値下げは「今のところ検討していない」という。

 輸入食料品やブランド品の大幅値下げも期待薄。大手商社の双日は「世界的に原材料費が高騰しており、ユーロ安のメリットは相殺される」と説明。百貨店業界も「材料コストや輸送費の上昇で、ブランド衣料の差益還元を打ち出せる状況にない」(関係者)という。

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